眼 (58)

眼 (58)

昔、滞在していた施設に、私大の眼科の医師が出入りしていた。彼とは、よくお勧めの喫茶店で昼食をとることがあり、その時に聞いた経験譚である。 外傷や感染症等で、角膜に重篤な異常がもたらされた時、角膜移植は重要な治療手段となるが、その時に使用されるのが、個人から提供された角膜である。生前、所定の機関に角膜の提供を登録しておき、その時になると眼科医が赴き、手早く確保するわけである。先の医師が当番であった時、とある登録者の自宅に行くこととなった。 その登録者の自宅というのが、いわゆる伝統的な豪邸であり、その規模に驚きつつ、敷地内の一画に車を止め、少し距離のある木造邸宅の玄関にたどり着き、要件を告げた。生…